孔子廟堂碑
孔子廟堂碑

書 の 歴 史 中国編 〈13〉 老本 静香


36、孔子廟堂碑

この碑は長安の国子監の孔子廟を再興した記念碑で、初唐の書の名人、虞世南が書いたものであるため、昔から最高の楷書手本として非常に重んじられてきました。

唐の太宗皇帝が即位すると間もなく、文教政策の第一歩として、当時の最高学府である国子監内の孔子廟を再建することを命じました。

 やがてそれが完成したので、孔子廟再建・文教宣揚の趣旨を碑に刻して永く記念することになりました。そこでその頃の書の名人であった虞世南が選ばれて。その文を作り碑面に書丹しました。

 書丹というのは、碑の文字を石に直接朱で書くことです。普通は紙に書いたものを石に貼りつけて刻りますが、当時は直接石に書くことをしたらしく、何某書丹としたものがたくさんあります。

 虞世南(558638)は役人で学問文学にもすぐれていました。唐の太宗は即位の翌年(618)天下の賢良の士、特に学問文学に勝れた人物18人を選んで弘文館学士に任命し、六人ずつ三交替で宿直させ、政治の傍ら学問について論じ、政治について色々相談しました。

 こんにちでいうブレーンで、虞世南も欧陽詢もその中の一人に選ばれましたから、当時の第一級の人物であっだことがわかります。

  虞世南は32でとりあげた智永に書を学んだといわれます。そこでひたすら

 書に励んで王羲之の書を会得し、晩年、楷書は王羲之と優劣つけがたいといわれるほどになりました。

  孔子廟堂碑の書は、おだやかな風貌の中に凛としたつよさと気品を持っているところを学びたいものです。


化度寺碑
化度寺碑

37、化度寺碑

楷書の古典は、時代や書風を見ると大きく三種にに分けることができるようです。

 第一は鍾や王羲之の作といわれるもので、大てい細楷に属するものです。第二は北魏を中心とした南北朝時代の碑や造像記などです。第三は唐時代の作で完成された美しく整ったものです。

 このように第三のグループ、つまり唐時代に楷書が完成されたのですが、欧陽詢はその時代の書の名人で、特に楷書が上手で立派な書を数多く残しています。しばらくその欧陽詢の書を紹介します。

 化度寺碑は正しくは「化度寺故僧邕禅師舎利塔銘」というのですが、略して「化度寺碑」と呼んでいます。しかし字の如く実はこれは碑ではなく塔の銘文です。

 邕禅師は隋の信行禅師を開祖とする三階教の高僧で、唐の貞観511月に化度寺で人寂しました。その後、長安の南にある信行禅師の霊塔の左側に邕禅師の舎利塔が建てられました。その銘文がこの化度寺碑です。

 この碑は宋代かそれ以前に壊されてしまいましたが、欧陽詢の書であるため拓本が非常に尊ばれ、宋代には翻刻本が作られています。そんなわけで伝えられているのが原本からとった拓本なのか、模刻本なのか区別がつけ難いといわれています。

 ところが今世紀のはじめに、敦煌の千仏洞からスタインおよびペリオが唐拓にまちがいない原拓の残本をそれぞれ発見して持ち帰りました。それが現在ロンドンの大英図書館とパリ国立図書館に保存されていますが、これを化度寺碑敦煌本と呼んでいます。写真は敦煌本のものです。


房玄謙碑
房玄謙碑

38、房彦謙碑

 欧陽詢は正書(楷書)の名人ですが、古書の記録によると隷書も沢山書いています。しかし今日伝えられているものはこの房彦謙碑と宗聖観記の二つだけということで、この碑は欧陽詢の隷書を知る上で貴重なものです。

 清の楊守敬はこの碑を評して、「欧陽詢の正書は多く八分の気味を帯びている。この碑は八分であるが、正書とそれほど距離は離れていない。漢の隷書と比較すれば見劣りするが、書法まことに緊健峭厲で、魏漢の風格を存している。唐の隷書の中では二つとない名品である」といっています。

 八分というのは隷書のことですが、隷書の書き方の一つみたいなものです。古隷といわれる最も古い隷書に対し、横画の末を髭のように右に払う波礫という筆法が生まれて、これを分とか分隷とか呼びました。普通には古隷・八分をひっくるめて隸書といっています。       

 欧陽詢の楷書のルーツはこの八分書にありますが、彼がよく漢魏の正統な晝を学んでいることがうかがえます。従って欧陽詢の楷書を知るためには、まずこの碑を学ぶことが必要で、そこで初めて欧陽詢の楷法を得ることができるといわれています。この碑はこうしたいろいろな点から貴重なものです。

 房彦謙は唐の建国に手柄のあった功臣で、隋に仕え涇陽県の令となった人です。その子房玄齢は唐朝に仕え功績があり、太宗よりたいへんな優遇を受けました。父房彦謙のために唐の官位が追贈されたので、貞観5年(631)に墓前に碑が建てられました。それが房彦謙碑で現在も山東省章邱県にあります。

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